ソレの話
私の住処には、人ではないものも住んでいる。 ちょっと居らないオプションだ。
キッチンで作業をしていると、ソレがものすごい近い距離に来る事がある。
と言うか、よく来る。
私はそれが堪らなく厭だし、怖い。
誰か分からない何かが居るなんて、怖いでしょう。いや、分かっても怖いか。
私にはソレの姿形は見えず、ソレの気配を感じ取る事しか出来ないから
近くに来なければ何をしていようが、私は一向に構わないのだけど
近くに来られると全身にザァーと鳥肌が立つので堪らない。
ものすごい近い時は「ちょっとアンタ近い」と窘めるのだけど、ソレは全く気にもとめないようで
「なんやアンタいい加減にしいや。イヤやって言うてるやろ。」
と本気を出して怒るとスッと居なくなる。
やれやれだ。 生きてる時も距離感が分からず、ちょっと近い近い!とかって怒られてた人なんだろうか。 学習してくれ。
ある時、私の傍に来るソレが、実際にはどの位近い距離まで来ているのか実験してみようと
何となく思い立った。
ものすごい近くに来る、とは分かっていても、実際にはどの位近くに居るもんなんだろうと。
そこで旦那さんに事情は話さず
「左斜め後ろからゆっくり近づいて、「ハイ」の合図で止まって貰っていい?」
とお願いした。
左斜めはいつもソレが来る方向。
「ハイ」の場所がいつもソレが居る、ソレの気配の場所。
「行くよー」
「はーいお願いしまーす」
「ハイ」と声をかけて左を向くと、旦那さんの顔が直ぐ目の前にあった。
ザザザァーと鳥肌が立った。
幾らなんでも、それは近すぎる。